「やります」

気付いた時には、口に出していた。

『長い旅になる』
『ずっと拘束する』
いいじゃないか。
それって、いいじゃないか!
長い旅なら、その間ずっとΣさんと一緒にいられる。
しかも、守ることが出来るのだ。
「え!?」
「オレ、やりますよ。Σさんに怪我させたのは、オレの責任だし…」
「しかし、それは私を助けて…」
「やりたいんです! オレが、自分で決めました。…オレがいると、迷惑ですか…?」
拒否されると、少しイタイな」。
引く気はないけれど。
「そんなことは…」
「Σ、これでいいんだろ? 本人がいいと言った。それで充分だ」
「しかし、護衛を依頼すると言っても、私達に余分なお金はないんですよ?」
多少の衣類や日々の生活費なら余裕があると言えるが、人を雇い入れるほどの金は彼等にはない。
どこまでも思案気なΣに、口を開いたのは永禮だ。
「ただで良いです! もしそれが気になるんだったら、肩の慰謝料ってことでもいいです。…オレ、一緒に行きますよ」
決意を込めて言うと、反応したのはαだ。
「決定だな。生活費用だけは出してやる。仕事内容は俺達…基本的にはθの、だな。護衛だ。『アフェマ』まで、周りのウザい虫を退治して貰う。後は…Σの手伝いだが…。始めて行く場所はいくらΣでも勝手が分からん。案内してやれ。…このくらいか。…腕は、確かなんだな?」
「自信はある」
「いいだろう」
だんだん、子供と話しているように感じなくなってきてしまう。
この威圧感。
「じゃぁ、俺は寝るぞ。…昨日はロクに寝てないんだ」
分厚い本を『コレコレ』と提示してみせる。
寝られなかったのは、本を読んでいたためらしい。
席を立ち扉に向かうと、その後をθがついて行く。
いつものことなのか、誰も何も言わない。
バタン、と目の前で扉が閉まると、もう一度扉の閉まる音がする。
出口に行く廊下の途中に、寝室があるらしい。
残されたのは、Σと永禮である。
「……本当に、良いのですか?」
「言ったでしょう。もう、決めたんです」
いくら問われても、引くつもりなどないのだ。
「しかし、見ず知らずの私達と…」
「見ず知らずじゃないですよ。αに、θに…Σさん、でしょう?」
「危険かもしれないんです」
「だったら尚更、三人で行かせるなんて出来ません」
言い切ると、Σは戸惑った表情になってしまう。
「…どうして、そこまで…」
「一緒に、いたかったから……」
ポツリと呟く。
聞こえたのか聞こえなかったのか、Σが『え…?』と顔を上げる。
「あなたと、一緒にいたかったからです!」
恥ずかしさを振り切るyouに、一気に言う。
「永禮さん…?」
「最初見た時、運命の人だって思いました! オレは、あなたを守る為にいるって感じました! こーゆーの…一目惚れって、言うんですよね…」
「え?」
あぁ、見えないと分かっていても、やっぱり恥ずかしい。
「好きです。あなたが」
恐る恐るΣの顔を覗くと、やはり驚愕の表情。
「でも、さっき逢ったばかりで…」
「時間は関係ありません! …好きだって思いました。…それが、全てです」
「永禮さん…」
言い終わると途端に恥ずかしさに我慢しきれなくなる。
「じゃ、じゃぁ、そ、そーゆーことですんで!」
言い逃げは卑怯かとも思ったが、もう耐えられそうにない。踵を返して扉を開けると、
「うわぁっ」
θがいた。
相変わらずの無表情で、永禮を見つめている。
(聞かれた!?)
超恥ずかしい。マジ恥ずかしい。バリ恥ずかしい。
それに限る。
「……」
「θ…?」
何も言わないθに、動揺を隠せない。
だらだらと冷や汗流す永禮に、またも不思議そうにθが呟く。


「Σは、男よ?」


「……………………………」


「……………………………」


うぇええぇぇぇぇぇぇええぇぇぇぇぇえ!?


「って、気付いてなかったんですか!?」
「え、ぇえ!? だって、あの!」
何と言うことだろう。
永禮はまた勘違いしていたのだ。
(だって、こんなに綺麗なのに…っ!?)
役に立たない教訓が、一つ増えた。
綺麗な男も、いるらしい。
しばらく唖然としていたΣが、苦笑いを浮かべる。
「…いいのですよ? 今から辞めても…」
「やです!」
とっさに、口が出てしまう。
「やりますよ! …今のは、ちょっと…驚いただけです! オレ、好きになったら男でも関係ないと思ってます。男って分かっても…やっぱり、好きです」
今更ながらに思うが、
(何も子供の前で言わんでも…)
バカである。
「永禮さん…」
「返事は、今すぐじゃなくてもいいです。…でもオレは、一緒に行くんで! …これから、よろしく……θも、な」
「えぇ」
頭をポンポン、と軽く叩くと、θは嬉しそうに無表情を崩す。
「じゃぁ! …また明日、来るんで」
とりあえず、自分の気持ちは伝えた。
ちょっと晴れ晴れとした気持ちで部屋を出る。

朝からしていた予感は、きっとこれだったのだ。
街路樹の下を、全速力で走る。
いいかも。
いいかも。
いいかも!

これって、いーかも!

すっげぇ、楽しくなりそうだ!





「良かったわね」
永禮が飛び出していった部屋の中に、二人は立っている。
「θ?」
「伝わってきたわ。…あったかくて、優しい気持ちだったわ。…触ってもいないのに、永禮の気持ちは勝手に入ってくるの」
「θ…」
「楽しみね」

楽しみ…。

確かに、楽しみかもしれない。
あの、単純で素直な性格。
太陽みたいな永禮と、一緒に旅をする。
楽しみ、か。

「えぇ…」



彼は、もしかしたら……






もしかしたら…



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